成果物:ワーキングペーパー成果物の政策へのフィードバックをめざして 2

成果物の政策へのフィードバックをめざして

「重点課題」から「共進化実現プロジェクト」への流れ

2.「重点課題」から「共進化実現プロジェクト」への流れ

—— SciREX拠点全体で行われている取り組みの背景・目的・概要

❖ 重点課題 2016〜2018年

2016年4月、第5期科学技術基本計画に基づき、科学技術イノベーション政策における「重点課題」が決定され、政策の柱(個別政策課題)としての重点課題は、下記の4つとなりました。

  1. ① 超スマート社会とSTI政策
  2. ② 少子高齢化対策とSTI政策
  3. ③ 地方創生とSTI政策
  4. ④ オープンイノベーション政策と産学連携

東大は、このうち「オープンイノベーション政策と産学連携」のテーマで、研究プロジェクト「イノベーション創出に向けた産学官連携:知識マネジメントと制度設計」を担当しました。その概要は下記の通りです。

【概要】
イノベーション創出に向けて、大学が産業、公的機関等と共に新たな知識を創出し、社会において効果的に活用するためには、どのような組織や制度が必要となるのか。産学官連携におけるリスクマネージメントとオープンサイエンスの観点から考察し、現状の課題と将来の可能性を検討する。
【プロジェクトリーダー】
城山英明(東京大学公共政策大学院 教授)
【代表拠点】
東京大学
【参画拠点】
GRIPS、大阪大学、京都大学、九州大学

東大としては、産学連携のあり方や、そこにおける利益相反のマネジメントのあり方などを、より大きな枠組みで客観的に分析する狙いがありました。そこで、4つの政策の柱の一つである「超スマート社会とSTI政策」もふまえ、産学連携という大きな文脈の中で、オープンデータなども対象として研究を進めました。

成果物を公開する際、オープンデータを相互利用してシナジー効果を生み出していく一方で、利益相反の問題、つまり大学の研究活動の信頼性をどう担保するか、またその制度設計をどう考えるかという問題が生じてきます。さらに安全保障問題が絡んで、状況がいっそう複雑になってきており、データの経済的価値が高まるにつれて、データの共有・管理などの考え方の整理が非常に大きなミッションとなりました。

産学連携のデータに関しては、各大学で事例レベルの共有の壁などの課題もありますが、これまでよりは実態に基づいた研究や分析ができる基盤的なプロジェクトをSTIGが開始したことに大きな意義があると言えます。

❖ 共進化第一期 2019年度〜

先に指摘したように、重点課題をふまえたプロジェクトは研究者側から課題設定する傾向がありましたが、共進化実現プロジェクトにおいては、政策担当者から提起された問題意識やテーマなどについて議論を重ねてプロジェクトを実施する点に特徴があります。

たとえば、宇宙利用推進室から宇宙に関する大学の人材育成支援活動の現状と今後の効果的な枠組みについての提案が出されましたが、東大は、もともとJAXAの研究者と宇宙政策の研究を進めており、STIG開始当初から、公共政策と技術系をつなぐ一つの事例として宇宙に関わるテーマも授業科目に採用していました。そこで両者の問題意識が合致し、以下のように、「新興国における宇宙技術の開発・利用に関する我が国の大学等による人材育成支援活動のための国内枠組みとその展開可能性の検討に資する実証的研究」プロジェクトが実施されることになりました。

【概要】
宇宙技術分野における大学を中心とした人材育成活動の現状や効果的な枠組み等について分析を行い、他の国際協力関連分野への応用・展開の可能性等を検討する。
【プロジェクトリーダー】
城山英明(東京大学公共政策大学院 教授)
【協働組織】
研究開発局 宇宙開発利用課宇宙利用推進室

このプロジェクトは英語を柱に進めたので、国内の北大、東北大だけではなく、海外はローマのサピエンツァ大学などとも情報交換し、それぞれの研究内容を具体的に把握することができました。また、イギリス、イタリア、オランダなど海外の大学からスピンオフした技術協力の企業などにもヒアリングでき、かなり踏み込んだ内容にまとめることができました。この成果をどう政策にフィードバックするかがこれからの課題となっています。

❖ 共進化・準備ステージ 2019年度〜

共進化実現プロジェクトは2019年度から始まりましたが、予算の関係もあり、本格的に実施されるプロジェクトと、発展するようなら研究を継続する準備ステージに分類されます。共進化第一期で紹介した宇宙に関する研究は前者であり、だいたい各拠点が一つずつ大きなプロジェクトを担当し、2年間にわたり実施します。そして、それ以外に後者のような準備ステージにあたる研究プロジェクトが複数採択されており、原則的に1年間の期間で実施されます。以下、東大で実施した2つの研究プロジェクトを紹介します。

◆ 大型プロジェクト支援の意思決定プロセスの戦略化方策検討に資する研究

ハワイのスバル望遠鏡、大型電波望遠鏡、核融合のヘリカル装置、素粒子実験の加速器、ニュートリノ研究のスーパーカミオカンデなど大型プロジェクトを対象にした学術的研究です。巨大科学技術への投資は学術や社会において重要である一方、一度開始されると方向性が固定され、新たな発見や社会的環境条件の変化に応じにくいという課題も持ちえます。また、こうしたプロジェクトの研究推進には、大型施設の建設・運営・維持に多額の費用が必要、10年単位での長期的研究になる、などの共通項もあります。そこで、こうした大型プロジェクトの意思決定プロセスのあり方などについて、政策担当者と協議して聞き取り調査と分析を実施しました。

【研究代表者】
松尾真紀子(東京大学公共政策大学院 特任准教授)

◆ 若手研究者の現状分析及び魅力的なキャリアパス形成支援の検討に資する研究

研究プロジェクトの動機は、博士課程進学者の減少、特に優秀な若手の「アカデミア離れ」が問題視されたことにありました。博士課程への進学率の低下状況は長く続いており、それ自体は新しい問題ではありませんが、この要因をめぐる研究は日本だけではなく世界的にもあまり行われてきませんでした。

そこで、「進学動向は学生の研究適性や能力によって左右される」という仮説に基づき、修士課程の学生を対象に、まず指導教官に個別の学生の研究適性を評価してもらい、その上で、学生に進路選択について回答してもらうという二段階設計の調査を実施しました。その結果、まず研究適性が高い学生は博士課程に進学する傾向が強いことが確認されました。一方、研究適性が高くても進学しない学生も多数いて、その理由は周知のように、博士号取得後のキャリアが不透明で生活設計が不安定というものでした。またこの傾向は女性で非常に顕著に観察されました。なお、研究適性が高くても博士進学を選択しない学生は、就職の後に、社会人学生として学び直したいという意向が強いことも分かりました。社会人博士の割合が増加する中で、今後の博士課程のあり方についての貴重な示唆が得られました。他にも様々な結果が得られており、プロジェクトの次ステージで分析を深めていきたいと考えています。

【研究代表者】
柴山創太郎(東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員)