STIGについて教育事業について「科学技術・政策・社会」をつなぐ人を育てる 1

「科学技術・政策・社会」をつなぐ人を育てる

これまでの教育成果と今後の展望

これまでの教育成果と今後の展望

2013年度からスタートしたSTIG(Science, Technology, and Innovation Governance)教育プログラム。科学技術イノベーション政策の立案、遂行に必要なエビデンス構築手法や政策プロセスに関する知識を備えた人材の育成をめざしてきました。ここでは、これまでの教育の成果と今後の展望や課題について紹介していきます。

1.「エビデンス」と「プロセス手法」を両軸として

—— STIGの設立理念と今日までの経緯

2011年、文部科学省は、客観的な根拠(エビデンス)に基づく政策形成の実現に向け、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」の研究の推進と人材の育成を一体的に行う事業として、SciREX事業(https://scirex.grips.ac.jp/)をスタートさせました。

この事業が発足する背景には、あらゆる分野の科学技術が急速に進展し、そのイノベーションが社会全体に決定的な影響をもたらす今日、エビデンスに基づいて、合理的に政策の立案・決定・実施を推進する必要があるという意識の浸透があります。

国民への説明責任、透明性の確保や現場の実態に即した予算執行に向けた国家予算の見直しが行われた中で、教育現場でもエビデンスをきちんと検証しなければならないという認識が強まっていました。

そこでSTIGでは、エビデンスやその手法の構築を主要な柱の一つとしましたが、定量的な狭義のエビデンスに限定することなく、定性的な広義のエビデンスも重視しました。同時に、政策決定プロセスの理解も重要であるという認識から、そのための実証的な手法の修得をもう一つの柱としました。こうして、「エビデンス」と「プロセス手法」を両軸としてSTIGがスタートしました。

2.多様な分野横断型科目を通じて異専攻の学生同士がともに学ぶ

——教育内容の特色と魅力

❖ 総合大学の強みを活かし多彩な科目を組み合わせて学べる設計

STIGの授業は、共同科目(必修科目)、必修選択科目、選択科目で構成されています。コアになる共同科目「事例研究」では、科学技術イノベーション政策とガバナンスについて全般的かつ俯瞰的に学ぶとともに、この分野で実践をめざしたい学生が学際的な視野やアプローチ手法を獲得することを目標としています。そのため講師陣の専門は、公共政策、経済、経営、工学など多岐にわたり、前半が科学技術イノベーション政策の全体像を網羅的に把握するための初歩的なレクチャー、後半がグループワーク(後述)という構成になっています。経営、工学など多岐にわたり、前半が科学技術イノベーション政策の全体像を網羅的に把握するための初歩的なレクチャー、後半がグループワーク(後述)という構成になっています。

それ以外は、基礎科目、展開科目、分野別研究科目に分かれており、必修科目の内容にプラスして、政策決定プロセスや制度、エビデンスの構築などに関する幅広い知識やスキルの獲得をめざしています。そのため、宇宙、海洋、医療、国際保健、公衆衛生、エネルギーなど自然科学系の教員が担当している科目でも、STIGの理念に合致したものは幅広く盛り込み、学生自身がそれぞれの関心に応じて組み合わせて学び、単位を取得できる設計になっています。

❖ 新たな気づきや発見につながるグループワーク、ディスカッション

共同科目の大きな特色はグループワークですが、現在は、担当教員それぞれのバックグラウンドをふまえたアプローチ手法を採用しています。たとえば、新型コロナ対応のためオンライン授業を採用した2020年度は、コロナ禍で進展している技術としてAR、VRなどのオンライン化によって進展する技術や、非接触を可能とする遠隔操作等の技術、個人特定とトレーサビリティの技術を取り上げ、政策的・経済的な評価や、ビジネスモデルのデザインを行いました。

そして、なるべく異なる専攻の学生が混ざるように配慮し、どのグループに入っても、他専攻の学生と議論できるように工夫しています。なお、近年は留学生も増えており、彼らに交じって英語でディスカッションする日本人学生もいます。そういう意味で、多様性を実感的に学ぶ機会にもなり、分野横断型のメリットを活かした授業となっています。

またSTIGでは、共同科目以外でも、グループワーク、ディスカッション、シナリオプランニングなどの手法を盛り込んだ科目が提供されています。大学院では、所属専攻以外の学生と交流する機会はほとんどないので、STIGで体験するこうした授業スタイルは、学生同士をつなぐ役割も果たしています。実際、授業中はもちろん、修了後も、つながりが継続しているケースも見られます。学生からも、「異分野間コミュニケーションができた」「新しい気づきと発見があった」など評価する意見が寄せられています。その意味でも、教員が一方通行的に講義する座学形式だけでなく、学生同士が交流する機会を提供している点もSTIGの大きな意義と言えるでしょう。