STIGについて教育事業について「科学技術・政策・社会」をつなぐ人を育てる 3

「科学技術・政策・社会」をつなぐ人を育てる

異分野をつなぐ人づくりで「科学と社会」に貢献

4.異分野をつなぐ人づくりで「科学と社会」に貢献

——これまでのSTIGの教育成果

❖ 進路のバランスの良さが証明するSTIG的教育ニーズの高まり

STIG登録者の内訳(https://stig.pp.u-tokyo.ac.jp/program_current_students.html)は、スタート以来、公共政策大学院、工学系研究科が過半数を占めていますが、その他、新領域創成科学研究科、農学生命科学研究科などをはじめ、さまざまな専攻の学生も学んでいます。2019年12月時点での修了生は96名で、このような分野横断型履修状況を反映し、修了後の進路は、官公庁30%、産業界26%、シンクタンク・コンサルティング20%、アカデミア17%、その他7%となっており、多様な分野にバランス良く人材を送り出しています。今後も官公庁や地方公共団体はもちろん、社会の多くの分野で、このような教育プログラムを学んだ学生のニーズが高まっていくと期待されます。

❖ 異分野間コミュニケーションができる人材への期待

STIGの大きな目標の一つは、分野横断型の学びの機会を通じて、各自の専門領域を超えたコミュニケーションができる人材を育てていくことです。それは文系、理系という固定的な枠組みに限りません。高度な専門分化が進む今日、たとえば、文系でも、経済、法律、政治、文学では学ぶ内容にほとんど共通項はありませんし、理系でも、実験中心分野と理論中心分野とでは発想も手法も大きく異なるでしょう。そのため最初は文系、理系の間ではもちろん、文系、理系内でも言葉自体が通じないところもありますが、その違いを認識するところからスタートし、お互いの立場を尊重しながら、一つのテーマや課題に協働して取り組める人材に育っていくことが重要なのです。

❖ STIG同窓会などで広がるネットワーク

グループワークなどを通じて、異なる専攻の学生同士のつながりができたので、それを履修後も活かしていきたいというニーズに応え、2019年7月に、修了生・教職員・学生を招いて同窓会を開催しました。複数の修了生が、「文理横断的なキャリアパスが実践できている」「自分の科学的な研究活動が広い意味での政策や社会的な状況の中に位置づけられるという新たな気づきがあった」という趣旨のフィードバックをしてくれて、STIGの有用性について語ってくれました。修了生の進路は、STIGを学ぶ学生たちのロールモデルでもあるので、具体的な体験に基づく情報やアドバイスが共有できる同窓会のようなネッワークづくりが重要になってきます。

学生たちが卒業後振り返って、このプログラムにどのような評価や期待を持っているかを検証するために、修了生にフォローアップ調査を行いましたが、その自由記述では、「多様なバックグラウンドの学生と話ができた」「ともに学んで仲間ができた」などのコメントが目立ちました。また「就職先でも、他分野の人と話すときのトレーニングになった」など、STIGで学んだ経験が現在の仕事で活かされているという記述もありました。

5.分野横断型教育プログラムのさらなる多様性をめざして

——今後の展望と課題

❖ 社会との接点の多い研究科へのアピールで履修意欲を喚起

総合大学の強みは、幅広い分野の科目やそれぞれを専門的に担う教員が揃っていることで、多様な専攻、多様なバックグランドの学生や社会人が学んでいます。一方、そういう恵まれた環境と条件が揃っているにもかかわらず、近い専門同士の学生でも、十分なコミュニケーションの機会が少ないという実情もあります。こうした問題意識から、STIGはスタート以来、多様な学生がともに学べることをアピールポイントに教育を実践してきました。

すでに述べたように、スタート当初から今日まで、公共政策大学院と工学系研究科の学生が過半数を占めていますが、今後はさらに多様な学生を増やすために、他の多くの研究科、特に社会との接点の大きい研究科にSTIGの意義をアピールし、公共政策と科学技術を学融合的に学びたい関心のある学生に訴えていく必要があります。

S2020年度はオンライン授業が採用されたため、例年よりは柏キャンパスにある新領域創成科学研究科からの履修登録が増えました。新領域創成科学研究科は学際的な課題に取り組む研究科であることから、そこに所属する学生にとっても我々が目的とする科学技術と社会の関係性についての問題意識を共有しやすいと思っています。今後もさらに多様な研究科から学生を取り込み、多様な学生間交流ができるプログラムをめざしていきます。

❖ 工学的/社会制度的デザイン論の体系化

今後、教育プログラムの充実をめざす方向の一つは、デザイン論をきちんと取り上げること、特に工学的なデザイン論と公共政策学的観点からのデザイン論を分野横断的に学べる内容を盛り込むことです。と、特に工学的なデザイン論と公共政策学的観点からのデザイン論を分野横断的に学べる内容を盛り込むことです。

公共政策大学院のリーディングプログラム、「GSDM(Global Leader Program for Social Design and Management):社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラム」(https://gsdm.u-tokyo.ac.jp/)でも、ソーシャルデザインのマネジメントを重視する方向を強化しています。STIGでも分野横断的なデザイン論の手法の体系化をめざし、2021年度はGSDMと連携し、ソーシャルデザイン・マネジメントのケーススタディを新科目として開講する予定です。

❖ 博士課程教育トレーニングの重点化

教育プログラムの充実をめざすもう一つの方向は、博士課程教育の重点化です。これまでの修了者96名の内訳は、修士課程修了者が圧倒的に多く、博士課程修了者は9名で全体の1割弱にすぎません。

STIGスタート当初は、公共政策専門職大学院も修士課程だけでしたし、技術経営戦略学専攻(TMI)も主体は修士課程だったこともあり、まず修士課程で分野横断的な学びに関心のある人材を育てるため、その教育トレーニングに重点を置いてきました。ただし当初から博士課程の学生を排除していたわけではないので、この分野に関心のある博士課程の学生も学ぶようになってきました。今後は、博士レベルの人材を社会に供給するニーズの高まりに対応して、博士課程の教育トレーニングにも重点を置いていく予定です。

❖ 新たな知と価値を創出する人づくりに向けて

STIGを学ぶ最大のメリットは、異分野を横断的に学ぶ経験を通じて、その成果を活かし、新たな知や価値を創造する人材に育つ可能性です。先に述べた、工学的/公共政策学的デザイン論の体系化と博士課程教育トレーニングの重点化は、このことと密接な関係があります。たとえば、STIGでの学びや経験をふまえて博士論文を執筆したら、どのような知的創造の可能性があるか。また、STIG修了後、社会のさまざまな分野で、これまでの常識にとらわれない新しい発想をどのように活かせるか——分野横断的な多様な学びを通じて幅広い視野とプロセス手法を獲得し、「科学技術・政策・社会」をつなげられる人材への期待は、今後ますます高まっていくでしょう。 多くの修了生が社会に出てからまだ数年。どの分野においても、正確な評価は時期尚早かもしれませんが、STIGでの経験をふまえて活躍する素地は十分あると確信しています。また、そのために、学生一人一人をどうサポートするかを考え、実行していくことがSTIGに関わる教職員の重要な役目だと思っています。