インタビュー2013

インタビュー:2013

STIGプログラム 修了生から後輩へのメッセージ

 

公共政策学教育部 経済政策コース 専門職学位課程修了
(会計系コンサルティングファーム)

森林 萌さん

先日ハーバード大のある研究者と議論した際の、縦糸と横糸の話が印象的に残っています。「ハーバードにはある分野を深く追及する縦糸の人材と共に、異なる学問分野の研究と社会システムを結びつける横糸の役割を担う人材が重要な役割を果たしている。この縦糸と横糸で織った一枚の布をプラットフォームとして、大学に集積された知見を社会に還元している。」要約すると大体こんなお話でした。

本教育プログラム「科学技術イノベーション政策の科学」はいわゆる横糸の役割の人材育成と同時に縦糸を担う専門家を目指す学生の方々にとっても魅力あるものとなっています。

このプログラムの履修対象者の中には社会システムの構築を目指す学生の方々が多くいらっしゃるでしょう。皆さんが社会システムに関わるとき、必ず異なる分野の専門家の知見を集約することが必要になります。私は東日本大震災後、原子力発電所の耐震基準をみなおすプロジェクトに関わりました。この問題には多くの学問分野の専門家が関わっています。耐震工学の研究者、地震動を研究する地震学者、断層を扱う地質学者、地形学者など、異なる分野の専門家間で完全な合意は非常に困難ですが、どの分野の意見も制度への重要な示唆を内包しています。私はこれらを集約してより良い社会システムを構築することがいかに難題であるか実感しました。

そこで、本プログラムですが、横糸の役割に必要なスキルの習得に適しています。例えば、「テクノロジーアセスメント」では、科学技術の専門家間や専門家と社会の考え方の違いをヒアリング等の体験を通じて学ぶことができます。また、「公共政策の経済評価」では、異なる専門家の意見を集約するためにどのような判断基準を設定すればよいのか、これを経済の知見を活かし定量的に設定することに活かせるテクニカルなテーマを扱っています。

本プログラムは、また、工学やライフサイエンスの分野などを専攻する多くの方に受講していただきたいと考えます。これは、科学技術が広く社会に利用されるとき、同時にそのリスクを社会に説明する必要があるためです。原子力発電所の耐震性の問題を見ても分かるように、科学技術を社会で利用するとき、事故や災害につながるリスクはゼロにはなりません。リスクの存在や種類を専門知識のない社会の側に説明することが求められています。本プログラムの「リスク・影響評価論」のような科目を通じ、専門家にとって重要なこうしたスキルを培い、今後の科学技術の発展に貢献していただきたいと思います。

経験のないものに対応することは困難です。逆に、一度自分の知見で想像の及ばない環境に触れることで、その後の人生で多くのステークホルダーの関わる問題や不測の事態に迅速かつ効果的に対応できます。幅広い分野の学生の方々に本プログラムを受講し、この国を支える人材となっていただきたいと考えます。