科学と社会をつなぐ政策を
東京大学大学院
総合文化研究科
総合文化研究科
教授 藤垣 裕子
エネルギー政策、医療政策、情報政策、環境政策、海洋政策、航空・宇宙政策などさまざまな分野において、科学的知見に基づく政策決定はとても大事です。しかし、科学的知見の蓄積がまだ不十分なときに、つまりまだ不確実性が残っているときに意志決定しなくてはならない政策課題も少なからずあります。たとえば、遺伝子組換え食品や狂牛病の危険のある牛の規制をどうするか、空気感染の可能性のある鳥インフルエンザの遺伝子情報は、バイオテロを考慮して論文にしないほうがいいのだろうか、地球温暖化にそなえて何をすべきか、そして東日本大震災後のエネルギー政策はどうあるべきか、などの課題です。
「科学技術と社会」をむすぶためには、そのような不確実性下の意志決定についても考える必要があります。EUの第7次FP(フレームワークプログラム)では、「科学と社会」におけるさまざまな市民参加について扱っています。そのなかにはリスクコミュニケーションをふくむ科学コミュニケーション、市民の自発的活動による地球温暖化対策、市民活動をベースとした社会イノベーション、など数々の工夫がみられます。私が専門とする科学技術社会論では、科学と社会をつなぐための政策や市民参加のありかたを研究対象としています。
日本でも、科学技術・学術審議会が建議「東日本大震災をふまえた今後の科学技術・学術政策の在り方について」(平成25年1月17日)のなかで、研究者の社会リテラシーの重要性や社会との接点におけるリスクコミュニケーションのありかたについて言及しています。政策においてどのように科学と社会をつないでいくか、授業のなかで皆さんとの討論をつうじて考えていきたいと思います。