バイオエコノミーセミナー
01.09.2024

[開催報告] 第143回STIG PoPセミナー/第19回バイオエコノミー勉強会(応用編)「日本のバイオ戦略とバイオものづくりをめぐる政策動向」


【開催報告】
 2009年のOECD報告書に提示されて以来、世界中でバイオエコノミーについて議論が活発化しており、日本においても2030年までにバイオエコノミー社会を実現する目標が掲げられている。本勉強会は、バイオエコノミーの多様性を理解し、関連するトピックを包括的に取り上げることを主旨としている。今回は、バイオエコノミーに関連する政策についてのお話を伺った。当日は71名の参加者の方をお迎えし、バイオものづくりの実現に向けた取組みについて、大変有意義な意見交換がなされた。
 今回の報告内容については、以下にその概略をまとめた。

◆バイオテクノロジーに関する国際政策動向
松尾 真紀子 東京大学 公共政策大学院・未来ビジョン研究センター 特任准教授

近年、アメリカやイギリスをはじめとした多くの国で、合成生物学/エンジニアリングバイオロジーについて様々な政策が展開されている。2020年前後に多くのコンサルティング会社がバイオに関連する報告書を出版し、様々な分野における技術応用の進展と、大きな経済効果への期待が示された。とりわけ世界中で消費される物質がバイオベースのものに代替されていくなかで、製造工程の大転換をもたらすバイオものづくりの重要性が叫ばれている。アメリカでは2022年の大統領令を皮切りに関連当局によるバイオエコノミーやバイオものづくりに関する具体的な政策文書が発出され、また、イギリスでも昨年末に科学・イノベーション・技術省がエンジニアリングバイオロジーに関する国家ビジョンを提示した。OECDでも、合成生物学に関する議論が専門家等を中心に進展している。単なる技術推進や設備投資のみならず、ルール作り、バイオセキュリティや標準化といった側面からの整備についても国際的な議論が活発化している状況にある。

◆バイオ戦略の今後の方向性
松本 拓郎 内閣府 科学技術イノベーション推進事務局 バイオ担当 参事官補佐

「バイオ戦略」は、バイオ関連市場の拡大、バイオコミュニティの形成、データ基盤の整備の3点を柱として、2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現することを目標に掲げる。米国やOECDのレポートでも指摘されている様に、この10年程の間でバイオの可能性は大きく開けてきている。現在3回目の「バイオ戦略」の改定に向けた議論が進められており、以下の5つの論点が提示された。
1)世界最先端のバイオエコノミー社会実現に向けて、関係者の取組を促すべく、その目指す姿をより具体的に示す必要があるのではないか。
2)大規模予算を活用した基礎及び製造技術開発について、成果の実装および製品化の加速に向けた、諸環境の整備に向けた戦略を示す必要があるのではないか。
3)さらなる新市場の創出に向けて、バイオに関する最新技術の動向や研究開発環境、人材育成等の戦略についても示す必要があるのではないか。
4)バイオコミュニティについて、活動の本格化に伴い、目標や取組について戦略に具体的に位置付ける必要があるのではないか。
5)上記のほか、バイオ戦略、統合イノベーション戦略、各省の戦略等の位置付けを踏まえた上で、記載内容を整理する必要があるのではないか。

◆バイオものづくりを取り巻く動向と 我が国の取組について
石塚 大輔 経済産業省 商務・サービスグループ 生物化学産業課 課長補佐

バイオ分野で世界をリードしていくためには、中長期的視野で大胆かつ重点的な投資をしていくことが必要である。経済産業省においてもバイオものづくり革命の実現を経済産業政策の新機軸の一つと位置づけ、経済成長と社会課題の解決という二兎を追うイノベーションとして推進している。具体的な取組みは、以下に示す3つの方向性に基づいて進められる。

1) 微生物プラットフォーム技術、 生産技術開発の加速化
微生物設計プラットフォーム技術と、培養・発酵等の生産段階の技術に特に注力する。GI基金事業及びバイオものづくり革命推進事業を活用し、技術開発・国際標準化を進める。
2) 業界のニーズと課題解決に向けた取組
バイオ由来製品の市場創出・拡大を図るため、GHG排出削減効果の認証・クレジット化などによりバイオ由来製品の経済的価値の向上を図る。また、消費者とのリスクコミュニケーションや諸制度の整備を通じて、消費者の受容性の向上を図る。
3) 事業環境の整備等による国内産業基盤の確立
バイオ人材の確保・育成やバイオものづくりを担うスタートアップ支援に加えて、実験 補助装置や測定機器、センサー、試薬等の国内の周辺産業の育成を進める。

◆バイオエコノミー分野の最近の動向
水無 渉 新エネルギー・産業技術総合開発機構・技術戦略研究センター バイオエコノミーユニット長

気候変動問題・生物多様性損失問題について国際的な議論が進み、カーボンニュートラルの動きの加速やネイチャーポジティブの重要性の認識拡大をはじめとした様々な変化から、バイオエコノミーの振興が大きく牽引され始めている。その様な背景のなかで、NEDOによりカーボンニュートラル実現に向けた重要技術を俯瞰・評価した「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針2023(NEDO総合指針)」が公表された。NEDOからは、これまでにも多くのバイオエコノミー分野の技術戦略策定や調査報告がなされているが、「自然共生経済」をテーマにカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブをともに実現するための提言が2023年度中の公表に向けて作成されている。作成にあたり、①再生可能資源への転換 ②廃棄物の再資源化と資源の循環性向上 ③自然資本の維持・再生 の3つの方向性を重視しながら議論を深めていく旨が報告された。


バイオエコノミー勉強会 (招待制/要申し込み)
第19回バイオエコノミー勉強会「日本のバイオ戦略とバイオものづくりをめぐる政策動向」
●日時:2024年 1月9日(火)15時30分~17時30分
●会場:Zoomによるオンライン開催
●主催:東京大学科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育・研究ユニット(代表 城山英明)https://stig.pp.u-tokyo.ac.jp/
●共催:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の革新的GX技術創出事業(GteX)「多様な微生物機能の開拓のためのバイオものづくりDBTL技術の開発」(2023-2027年度)(研究代表:本田孝祐)、SciREX共進化実現プログラム第IIIフェーズ「バイオエコノミーを目指したバイオものづくりの推進:政策課題の可視化と制度設計」(研究代表:松尾真紀子)、「Bio-Digital Transformation(バイオ DX)産学共創拠点」(プロジェクトリーダー:山本卓)

●スケジュール:
・「本会の趣旨説明およびバイオをめぐる国際政策動向について」 
 松尾真紀子 東京大学(15~20分)
・「バイオ戦略の今後の方向性について」
 松本 拓郎 内閣府 科学技術イノベーション推進事務局 20分~30分(QA含む)
・「バイオものづくりを取り巻く動向と我が国の取組について」
 石塚大輔 経済産業省 商務・サービスグループ 20分~30分(QA含む)
・「バイオエコノミー分野の最近の動向」
 水無渉 新エネルギー・産業技術総合開発機構・技術戦略研究センター 20分~30分(QA含む)
残りディスカッション

参加者:71名

講演者の紹介

松本拓郎 内閣府 科学技術イノベーション推進事務局 バイオ担当 参事官補佐
2022年6月より現職。2013年に文部科学省に入省後、初等中等教育における教育課程、国際的な基礎研究拠点形成、防災科学技術の研究開発・社会実装等を担当。現職では、総合科学技術・イノベーション会議の分野別戦略の一つであるバイオ戦略の推進を担当。
石塚大輔 経済産業省 商務・サービスグループ 生物化学産業課 課長補佐
2022年5月15日より現職。2008年に経済産業省に入省後、省内の予算編成、電力業界の税制改正/会計、中小企業金融(政策金融)を担当。2015年から1年間米国Vanderbilt大で政策研究に従事した後、温暖化対策、競争政策を担当。人事(人材育成)を経て、現職では、バイオものづくり(ホワイトバイオ分野)の政策支援を担当し、企業の社会実装を支援。
水無渉 新エネルギー・産業技術総合開発機構・技術戦略研究センター バイオエコノミーユニット長
2020年4月1日より現職。現在、NEDOのシンクタンク機能として、バイオエコノミー分野の技術戦略策定や政策エビデンス等提供等、国家プロジェクト組成などをおこなっている。また、World Economic ForumやGlobal Bioeconomy Sumitの国際アドバイザリーカウンシルなどの活動を通して、世界でのバイオエコノミーの振興について取り組んでいる。(三菱ケミカル株式会社からの出向)
松尾真紀子 東京大学 公共政策大学院・未来ビジョン研究センター 特任准教授
2020年4月1日より現職。現在、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」教育・研究ユニット(STIG:Science, Technology, and Innovation Governanceプロジェクト)で、国際政治・公共政策学・リスク研究等多様な観点から科学技術と社会の交錯領域(食品安全、バイオエコノミー、国際保健等)におけるガバナンスやELSIにかかわる研究に従事。履歴・業績:https://researchmap.jp/makiko_matsuo

【バイオエコノミーセミナーシリーズの目的】OECDで2009年のバイオエコノミーに関するレポートが作成されて以来、欧米各国ではバイオエコノミーをキーワードとする政策文書が策定され、バイオエコノミーに対する機運が高まっている。日本でも「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現」することがバイオ戦略2019で謳われ、毎年バイオ戦略を更新しつつ推進していくとしている。他方、バイオエコノミーは非常に広範な概念であり、具体的な全容は十分に明らかでない。そこで本セミナーでは、国内外の動向について詳しい方々をお招きし、関係者間でバイオエコノミーの現状に関する情報共有を目的とする。その上で、日本にとってのバイオエコノミーの意義、強み、課題の検討につなげていく。