【開催報告】
勉強会では冒頭、司会の東京大学 松尾真紀子より、本勉強会の趣旨と前回の概要の共有を行ったうえで講演者から話題提供を行った。
まず初めに、神戸大学 副学長 大学院 科学技術イノベーション研究科 研究科長 理化学研究所 環境資源科学研究センター(横浜)副センター長の近藤昭彦教授より、「合成生物学・バイオファンドリーのエコシステム形成に関する国内外の動向と課題」についてお話いただいた。バイオエコノミーは、医療(メディカルバイオ)、農業(グリーンバイオ)、工業(インダストリアルバイオ)で展開されている。そうした中このバイオエコノミーを戦略的に展開するうえで欠かせない、バイオファンドリーへの注目が高まっている。生物学に工学的アプローチを導入する合成生物学をベースに、DBTLを、AI/ITとロボットによる自動化で超高速化して展開する生産プロセス開発・バイオファンドリーが世界的行われていることが、具体的な説明とともに論じられた。神戸大学ではアジア地域で唯一のバイオファンドリー型企業を目指してバッカス・バイオイノベーションを設立し、DNA合成、ゲノム編集などの合成バイオベンチャーを集積した統合型プラットフォームの形成に取り組んでいることが紹介された。
次に広島大学 統合生命科学研究科、ゲノム編集イノベーションセンター センター長の山本卓教授より、「ゲノム編集の現在地」について話題提供いただいた。ゲノム編集技術はCRISPR Cas-9の登場後、世界的にも技術的な応用や開発が国内外で加速的に進展しており、次の破壊的な技術としてプライムエディティングがあるとされた。ゲノム編集は、バイオ燃料や育種等の農業分野、疾患モデル作成や創薬・治療当の医療分野など幅広い応用分野があり限りない可能性がある。これまで広島大学で構築した、産学協創コンソーシアム、そして現在取り組んでいるバイオDX産学共創拠点における、データ利活用連携機関との取り組み、知財戦略、創薬支援、ゲノム編集支援オープンプラットフォーム開発等の様々な取り組みが紹介された。
ディスカッションでは、合成生物学・ゲノム編集の研究における第一人者であるとともに、国内で大学発ベンチャーの展開やネットワーク形成を精力的に行っている両研究者から、日本の研究開発戦略のありかた、産業化における知財戦略、人材育成の課題など様々な観点から議論が行われた。
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【バイオエコノミーセミナーシリーズの目的】OECDで2009年のバイオエコノミーに関するレポートが作成されて以来、欧米各国ではバイオエコノミーをキーワードとする政策文書が策定され、バイオエコノミーに対する機運が高まっている。日本でも「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現」することがバイオ戦略2019で謳われ、毎年バイオ戦略を更新しつつ推進していくとしている。他方、バイオエコノミーは非常に広範な概念であり、具体的な全容は十分に明らかでない。そこで本セミナーでは、国内外の動向について詳しい方々をお招きし、関係者間でバイオエコノミーの現状に関する情報共有を目的とする。その上で、日本にとってのバイオエコノミーの意義、強み、課題の検討につなげていく。
日時:2021年6月3日(木)12時30分~15時過ぎ
会場:Zoomによるオンラインで実施
主催:東京大学科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育・研究ユニット
共催:SIP (スマートバイオ産業・農業基盤技術)国民理解コンソーシアム、海外規制動向担当、立川雅司・松尾真紀子)、「広島から世界最先端のバイオエコノミー社会を実現する Bio×Digital Transformation(バイオ DX)産学共創拠点」(プロジェクトリーダー:山本卓ゲ ノム編集イノベーションセンター長・教授)科研A「新たな情報技術・バイオテクノロジーの国際的ガバナンス-情報共有・民間主体の役割」(代表:城山英明)
参加者:75名
●プログラム
-趣旨説明と前回までの概要:松尾 真紀子(東京大学公共政策大学院 特任准教授)
-合成生物学・バイオファンドリーのエコシステム形成に関する国内外の動向と課題
近藤 昭彦(神戸大学 副学長 大学院 科学技術イノベーション研究科 研究科長
理化学研究所 環境資源科学研究センター(横浜)副センター長)
-ゲノム編集の現在地:
山本 卓(広島大学統合生命科学研究科、ゲノム編集イノベーションセンター センター長)
- ディスカッション(講演者×会場からのコメント・質疑)