イベント ポリシープラットフォームセミナー
09.13.2019

【開催報告】第81回STIG PoPセミナー/エビデンスとプロセスの相互作用で厚生労働分野のイノベーションを加速できるか?―EBPMのさらなる進展を見据えてー


【開催報告】第81回STIG PoPセミナー、「エビデンスとプロセスの相互作用で厚生労働分野のイノベーションを加速できるか?―EBPMのさらなる進展を見据えてー」では、「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」(地域共生社会推進検討会)から公表された『中間とりまとめ』を事例として取り上げ、より幅広く、厚生労働分野のイノベーションについて議論した。本セミナーでは、基調講演のあとにパネルディスカッションを設け、最後に斬新な試みとしてラップアップセッションを開いた。基調講演は、厚生労働省大臣官房・広報室長の野﨑 伸一先生から頂戴し、その後、パネルディスカッションのパートには東京大学大学院法学政治学研究科の城山英明先生、東京大学大学院新領域創成研究科・准教授の加納信吾先生に加わっていただいた。ラップアップセッションでは、株式会社セント・フォースのフリーアナウンサー、河西歩果さんに参加していただいた。
 なお、本セミナーは、先端医療のレギュレーションのためのメタシステムアプローチ(JST-RISTEX 科学技術イノベーション政策のため科学 研究開発プログラム)との共催であり、武蔵野大学国際総合研究所から特別協賛をいただいた。記してお礼申し上げる。
基調講演で示されたのは、リスクが非典型化、複合化して「自助」、「互助」の基盤が弱まっていることであり、それに対する行政としての新しい対応の可能性である。家庭では単身世帯、ひとり親世帯、高齢者夫婦のみ世帯が増加しており、未婚化の進行や性別役割分業の変化が見られる。地域では人口減少、団塊世代の高齢化、そして何より、地域の支える力が弱まっている。職場では非正規雇用の増加、雇用の流動化に加えて、賃金の伸び悩みや、
会社への帰属意識の変化が見られる。要するに、生活保障を取り巻く環境が変化した結果、ニーズが変容していて、セーフティネットが綻びはじめているということである。多様な形で広がる生きづらさへの対応については、典型的なリスクに給付を充てるアプローチの限界を示しめている可能性がある。
ニーズの変化に対する政策展開の方向としては、セーフティネットの張り直し、新しいコミュニティの創造、地域の実情に応じた包括的な
支援体制の確保が挙げられた。具体的に言えば、生活の多様性・複雑性を前提に、伴走を基礎に置くモデル、顔の見えるケア・支えあう
関係の拡充・発展から、コミュニティを再建するアプローチとしてのプラットフォーム(出会いと学びを生み、新しい展開が生まれる場)、包括的支援体制の構築に意欲的に取り組む市町村に、補助金を一括して交付などが例示された。
併せて今後の課題も示され、制度の適切な評価枠組みは何かということや、政策的な支援の根拠をどこに置くか、「公」を担う民間の役割(ヒト・モノ・カネ)の評価などが挙げられた。
続くパネルディスカッションでは、基調講演のお話が健康・医療分野、とくに先端医療にもどのくらい当てはまるのか、を意識して進められた。「EBPM」(エビデンスに基づく政策立案)に代表されるように、政策のタイミングと内容をより合理的にしようという試みは、必ずしも生活保障に限った話ではない。生活保障を含めて先端医療にも当然当てはまりうる。基調講演のお話は、これまでの政策立案におけるエビデンスが十分だったのか、政策立案をする「場」や実施主体がどのくらい適切だったのか、という問題を考えさせるものだった。個人を尊重して、個人まで射程に入れた政策や、コミュニティを再建して市町村の自発的な取り組みを支援するようなアイディアを具現化する取り組みは、極めて斬新だと思われる。ちなみに、先端医療の分野でも個人に着目した「precision medicine」という概念はあるものの、必ずしも十分に実現化されているわけではない。
パネルディスカッションでは、リスクが非典型化、複合化している世の中で、「プラットフォーム」に関心が集まっていることについて議論が及んだ。リスクが非典型化、複合化している場面では、行政府の政策立案上、省庁内、省庁間での調整が必要になりやすくなる。プラットフォームを上手に駆使すれば、省庁内や省庁間の隙間を埋めることができるかもしれない。エビデンスについても、量的な調査はもちろん質的な調査にも限界はあり、とくに「個」を捨象することで成立する。また、各種調査は、現場から離れれば離れるほど利益相反の可能性が減る一方、サンプリング・バイアスや調査者や有識者自体のバイアスを受けやすくなる。しかも、調査には一定の時間を要するものの、リスクが非典型化、複合化している世の中では調査結果をまとめて分析しているうちに、現状が変容している場合さえあり、担当者が移動して調査をやり直すことさえありうる。以上のような理由から、生活保障ではもちろん先端医療でも、「プラットフォーム」という仕組みに関心が集まっている。とはいえ、新しい仕組みには新しい問題が付き物で、とくに、どんな価値を見出し、どうやって政策評価し、誰がどうやってコストを負担するべきか、という点はまだ十分に解決されていないことも確認された。
最後のラップアップセッションでは、河西歩果さんと一緒に、今回のイベントを総括する新しい試みを行った。これは、大学で開かれるイベントでは、図らずも専門家向けに、難しい話に終始しがちであることを反省して初めて企画された。一般の方向けに重要な点をまとめ、それがきっかけで議論の一般の方々への浸透や、一般の方々とのさらなる対話に繋がるようにしたい、という思いからの企画である。このセッションでは、国でない主体、より現場に近い主体が重要な政策の具体化に関与することの意味、政策に関与する際の基本的なルール(ルールオブルール)の必要性や可能性、さらには国以外の主体、今回で言えばプラットフォームが重要な政策の一部に関与するのには、その役割に価値を見出す人々が増えて、信頼が醸成されて、コストを負担してもよいと思えるまでに一定の時間がかかりうる
ことなどについて言及した。

東京大学公共政策大学院 特任准教授
佐藤 智晶



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日時:2019年10月8日(火) 18:30~20:00
場所:東京大学伊藤国際学術研究センター3階 特別会議室
主催:東京大学公共政策大学院「科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」教育・研究ユニット」
共催:先端医療のレギュレーションのためのメタシステムアプローチ(JST-RISTEX 科学技術イノベーション政策のため科学 研究開発プログラム)

お申込み:事前申し込みが必要です。こちらのフォームからお申込み下さい。

【開催趣旨】
EBPMとは、内閣府によれば、「政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること」です。厚生労働分野では、持続可能な社会保障制度の実現に向け、医療・介護サービスの生産性向上を図ることが急務となっており、そのための最大のツールは「データ」ないし「エビデンス」の活用だと考えられています。言い換えれば、データに基づく技術等の予測と、より予見可能性と透明性の高い政策です。実際のところ、「経済財政運営と改革の基本方針2019~「令和」新時代:「Society 5.0」への挑戦~(令和元年6月21日閣議決定)では、「エビデンスに基づく政策の促進」に言及があり、同日に公表された「成長戦略フォローアップ」では、エビデンスに基づく政策の促進がより鮮明に打ち出されています。たとえば、「医療保険や介護保険のインセンティブ措置の指標の見直しに際しては、エビデンスに基づき予防・健康事業の効果検証を行い、徹底した PDCAサイクルを通じ、効果的な事業を展開すること」になっています。
データないしエビデンスを活用するといっても、最後に政策の恩恵を被るのは国民1人1人です。政策の評価から立案、実施に至るまで、究極的には政策の恩恵を被る「個人」、そして「個人」を取り巻く個別具体的な場面を想定しておくことが欠かせません。そのことは、最先端医療の分野でも個別化医療という形で認識されはじめていますが、問題は、どうやって国民1人1人のために、データないしエビデンスを、どのようなプロセスで活かしていけるのかです。たとえば、令和元年7月19日には、「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」(地域共生社会推進検討会)から中間とりまとめが公表されました。同中間とりまとめでは、「一人ひとりの生が尊重され、複雑かつ多様な問題を抱えながらも、社会との多様な関わりを基礎として自律的な生を継続していくことを支援する機能の強化」が提唱されています。そして、属性や課題に基づいた縦割りの制度を再整理する新たな制度枠組みの創設や、における気づきを契機として、複数分野の関係者が協働し地域づくりに向けた活動の展開の検討というように、新しい政策アプローチが模索されています。このアプローチでは、マクロ的なアプローチでは忘れられがちな「個人」により寄り添い、より幅広いステイクホルダーとともに、従来よりもデータやエビデンスの集め方、データやエビデンスの活用について議論する場(プラットフォーム)、そして持続的に政策を改善していけるようなプロセスの方に関心が払われているように思われます。
 「エビデンスに基づく政策の促進」というときに、国民1人1人のために、データないしエビデンスを活かし切って、イノベーションを加速できているのでしょうか。「エビデンスに基づく政策の促進」は、実際、どのような形で進んできているのでしょうか。そして、エビデンスに基づく政策を進めていくにあたって、困難な点はないのでしょうか。今回は、最近の厚生労働省での取組みと今後の展望について伺うとともに、先端医療等のイノベーションとレギュレーションに関する研究から分かってきた知見を織り交ぜて、「エビデンスとプロセスの相互作用で厚生労働分野のイノベーションを加速できるか?」について、より患者や国民に近い目線を含む幅広いステイクホルダーの皆様と議論を深めてみたいです。

【プログラム】
18:30 開会
18:35-18:55 基調講演:野﨑 伸一(厚生労働省大臣官房・広報室長)
18:55-19:35 パネルディスカッション
パネリスト(50音順)
 加納 信吾(東京大学大学院新領域創成研究科・准教授)
 城山 英明(東京大学公共政策大学院/東京大学大学院 法学政治学研究科・教授)
 野﨑 伸一(厚生労働省大臣官房・広報室長)
モデレーター
 佐藤 智晶(東京大学公共政策大学院特任准教授/青山学院大学法学部准教授)
19:35-19:50 質疑応答
19:50-20:00 クロージング・ラップアップセッション

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お問合せ先:
科学技術イノベーション政策の科学(STIG)事務局
STIG@pp.u-tokyo.ac.jp