本PoPセミナーでは、イノベーション・システム、つまり、何が相互に影響しあってイノベーションの実現を促しているのかについて、国立清華大学(台湾)のWong Chun-Yuan専任講師の研究成果を基に議論を行った。Wong講師は、台湾、マレーシア、シンガポールの第二次大戦後の農林水産業分野の生産性向上事例を比較分析し、いずれも生産性向上という点では成功を収めているものの、とりわけ台湾の事例では農業の現場からのイノベーションがその後も続き、価値の創出が継続的に行われていることを指摘された。Wong教授は、イノベーション・モデルが、(1)ユーザー・コミュニティの能力向上につながる国・研究機関・ユーザーの相互作用が存在するモデル、(2)国家主導、かつ、ユーザーとの相互作用が限定的なモデル、(3)両者の中間モデルに区分できるのではないかと主張した上で、(1)のモデルがその後の持続的なイノベーション創出に最も寄与しやすいとの仮説を提示された。会場との議論の中では、先進国のハイテク産業では、国・研究機関から産業という一方通行のリニアモデルではなく、科学と産業の相互の連鎖(チェーンモデル)が重要であることが論じられてきたが、これが発展途上、かつ、伝統的な産業にも妥当する可能性があること、そして、その要因としてイノベーションが社会的な関係性により誘発され、普及していくことが議論された。【東京大学工学系研究科 特任助教 吉岡 徹】
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【概要】How to encourage innovations in traditional industries? This seminar argues the capacity building process in the regional innovation system context. Using comparative studies of agricultural production systems in Malaysia, Singapore, and Taiwan, we lead a typology of the capacity building process and policy lessons to enhance innovations in the agricultural sector. (伝統的な産業でどのようにイノベーションを促進することができるだろうか。このセミナーでは農業を例に、地域のイノベーション・システムの能力構築の過程について議論をしたい。マレーシア、シンガポール、台湾の3地域の農業分野のイノベーションの事例を比較し、能力構築の類型化を行う。)
日 時:2019年 3月12日(火)17:30-19:00
場 所:東京大学本郷キャンパス 国際学術総合研究等12F 演習室E
講演者:国立清華大学(台湾)科学技術マネジメント研究センター Chan-yuan Wong助教(Chan-yuan Wong, Assistant Professor, Institute of Technology Management, National Tsing Hua University)
演 題:”A typology of the capacity building for regional innovations: Case of agricultural sectors in three East Asian countries(地域イノベーションのための能力構築のパターン:東アジアにおける農業分野の事例を中心に)”
お申込:要事前登録。こちらのフォームからお申込み下さい。(※登録フォームが開けない方、確認メールが届かない方は、メールにてSTIG@pp.u-tokyo.ac.jpまで所属・お名前をお知らせください)
言 語:英 語
講演者の略歴:
Chan-Yuan is presently a faculty at Institute of Technology Management, National Tsing Hua University of Taiwan. He was a Senior Lecturer at University of Malaya (2011-Aug 2018) and also consultant for Malaysia’s Ministry of Science, Technology and Innovation (MOSTI) and Malaysian Industry-Government Group for High Technology (MIGHT) for several research projects, and IDRC-sponsored projects on Innovation Policies and Inclusive Development of Asia. He received his Ph.D from the Faculty of Economics and Administration of University of Malaya. He had assumed a postdoctaral stint at the Department of Urban and Regional Planning at Chulalongkorn University of Thailand and working as visiting researcher at Institute of Technology Management of NTHU in 2012, the UNU-MERIT of the Netherlands in 2015 and the Institute for Economic Research of Seoul National University, Korea in 2017. He has published extensively in several international refereed journals on STI policy, economics of catch-up and research evaluation.(科学技術政策、新興国のキャッチアップ、研究評価に関する研究を専門とする博士(経済・経営学)。マレーシア大学上級講師を経て、2018年より現職。マレーシア科学技術イノベーション省ほか、科学技術政策に関わるコンサルテーションにも携わる。また、チュラロンコーン大学、国立清華大学、国連大学マーストリヒト・イノベーション・経済社会研究所。ソウル大学などの客員研究員も歴任。)