第12回Policy Platform Seminar
オンスクリーンメディアのデザイン
tha ltd.代表取締役/中村勇吾
第12回PoPセミナーでは、本学工学系研究科を修了され、デザインスタジオ「tha ltd.」を設立、カンヌ国際広告フェスティバル・グランプリ受賞をはじめ、NHK Eテレ「デザインあ」のインターフェイスデザイナーなど、世界的にご活躍されているウェブデザイナー、中村勇吾さんに、デザインによるイノベーションの可能性についてご講義いただきました。
講師:tha ltd.代表取締役/中村勇吾
日時:2013年10月16日(水)16:40~18:20
会場:東京大学本郷キャンパス 福武ラーニングシアター
主催:東京大学公共政策大学院 科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育・研究ユニット
※本セミナーはSTIG共同科目「科学技術イノベーション政策研究」の一環としても開催します
今回のPoPセミナーは、デザイナーの中村勇吾さんにお越しいただき、ご自身がデザインされたインターフェイスや映像作品をお見せいただきながら、その背景についてお話いただきました。冒頭に、デザインのおしごとには「一周目」と「二周目」があり、新たな発見に基づく一周目のデザインだけでなく、既存のデザインをもとに発展させる二周目のデザインも数多く存在することを、事例を通じてわかりやすくご説明いただきました。中村さんが、おしごとや興味本位の制作から、デザインの新たな「ボキャブラリー(ライブラリ)」が生まれ、それを展開、発展させていかれた過程を拝見すると、デザインによるイノベーションは、デザイナーの一瞬のひらめきではなく、むしろ、おしごとを通じて蓄積される「ボキャブラリー」の質と量に依存するのだろうな、という印象を受けました。
また、中村さんのお話には、モノやヒトやその動きをじっくりと観察することに対するこだわりが、貫かれていたようにも思われます。たとえば、お見せいただいたdropclockは、水の中に数字のブロックが落下していくようす、そのときの水が見せるしぐさをじっくりと眺める作品でした。「デザインあ」でも、児童に対して、デザインそのものを教えるのではなく、ものの見方を提示することをコンセプトとされているそうです。デザインによるイノベーションを狙う場合も、いきなりプロダクトのデザインに執着するのではなく、むしろ普段からいろいろなモノを眺めて愉しむ余裕が必要なのかもしれません。
最後に、政策を通じたデザインによるイノベーション推進の可能性について質問させていただいたところ、スティーブ・ジョブズの「イノベーションを起こすしくみは、そんなしくみなんて持たないことだ」というお言葉をいただきました。確かに、大上段から政策を議論する前に、普段からモノゴトをじっくり観察し、そしてコツコツと仕事をこなして「ボキャブラリー」を創るデザイナーそのものを、まずはじっくり観察させていただくところから始めるべきなのかもしれません。(文責:松浦)
【講師紹介】
中村勇吾(なかむら・ゆうご)氏
ウェブデザイナー/インターフェイスデザイナー/映像ディレクター
1970年、奈良県生まれ。東京大学大学院工学研究科修了。
2004年にデザインスタジオ「tha ltd.」を設立。
主な受賞に、カンヌ国際広告賞グランプリ、東京インタラクティブアワードグランプリ、TDC賞グランプリ、毎日デザイン賞など。
科学技術イノベーション政策の科学教育プログラムでは、産・官・学をつなぐプラットフォーム構築の場として、Policy Platform Seminar(PoPセミナー)を開催しています。