【開催報告】
9月29日に開催した第60回STIG PoPセミナーでは、早稲田大学総合研究機構リンアトラス研究所 客員教授の大竹久夫先生に「Pイノベーション―リン循環産業ビジョンとバリューチェーン」と題し、お話をしていただきました。
まず、リンそのものの重要性、すなわち、リンは生命の維持のみならず産業など様々な用途においても必須であるにもかかわらず、日本がその全量を海外からの輸入に依存している実態について強調されました。そして、リンには、資源や食料の安定供給リスク、その背後にある地政学的リスク、環境リスクなど様々なリスクがありますが、そうしたことを網羅的に把握し、検討する枠組みが国際的にも国内的にも十分にないことに対する危機感が論じられました。
特に全量を輸入に依拠している日本にとっては国内に様々な形で存在するリンをいかに回収し循環させるかが課題となり、日本では関係する官民の様々なアクターから形成されるリン資源リサイクル推進協議会が設置され、また、下水汚泥や鉄鋼スラグなどからリンリサイクルを行う先駆的な取り組みが展開されつつあることが紹介されました。しかしながら、そうした取り組みを社会全体として展開していくためには、持続的なリン利用とその循環についての政策的に重点化して展開する必要があることが議論されました。当日のセミナーには29名の参加があり、活発な議論が行われました。(東京大学公共政策大学院/松尾真紀子特任講師)
【セミナー概要】
■日時:2017年 9月29日(金)16:30~18:00
■場所:東京大学本郷キャンパス 国際学術総合研究棟12F 演習室A (1213A)
■講演者:
早稲田大学総合研究機構リンアトラス研究所 客員教授 大竹 久夫 先生
1.27億の日本人が生きていくには、毎年少なくとも約4.6万トンのリン(P)が必要である。リンはまた、電子部品、自動車、医薬品や食品等の広範な製造分野で使われる「産業の栄養素」でもある。これまで120近く発見されている元素の中でも、農業、工業、資源および環境のいずれの分野においても重要とされる元素はリンの他にはないだろう。にもかかわらず、日本はリン鉱石資源をもたず、ほぼ総てのリンを海外からの輸入に頼っている。産業はともかくとして、日本人の生命を維持するためだけでも、少なくとも毎年約4.6万トンのリンを輸入し続けなければならないという事実は、日本にとってリンの確保がいかに根源的で避けて通れない重要な問題であるかを物語っている。
早稲田大学総合研究機構リンアトラス研究所は、リン問題に取組むわが国唯一のシンクタンクであり、リンのない日本でリンの自給体制を構築するというPイノベーション構想を提唱している。日本には、リン問題に精通した政策担当者が十分におらず、Pバリューチェーン全体を俯瞰して政策を立案できる人材の育成もまた急務である。
本PoPセミナーでは、Pイノベーション―リン循環産業ビジョンとバリューチェーンについて国内外の技術および政策の最新動向を含め分かりやすく解説する。
■要事前参加申込:お申し込みは<こちら>から
※登録フォームが開けない方は、メールにて、STIG☆pp.u-tokyo.ac.jp(☆→@に置き換え)まで所属・お名前をお知らせください。
定員:40名(定員に達した場合、お申込をお断りする場合があるのでお早めにご登録下さい)
主催:東京大学 科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育・研究ユニット
問い合わせ先:STIG教育プログラム事務局
STIG@pp.u-tokyo.ac.jp
※科学技術イノベーション政策の科学教育プログラムでは、産・官・学をつなぐプラットフォーム構築の場として、Policy Platform Seminar(PoPセミナー)を開催しています。