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06/26
2015

【開催報告】第8回健康・医療戦略ラウンドテーブル:アメリカ医療保険改革法から学べること、特に医療の質の向上に着目して


日時:2015年6月26日(金)18:00~19:30
会場:伊藤国際学術研究センター地下1階ギャラリー1
参加費:無料
言語:英語/日本語 ※英語から日本語への同時通訳あり
主催:東京大学 科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育・研究ユニット
共催:明治大学国際総合研究所
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Photo: 伊ケ崎 忍

【開催報告】
 第8回健康・医療戦略ラウンドテーブルでは、明治大学国際総合研究所客員研究員であり、外交問題評議会フェローのジェニファー・フリードマン氏をお招きして、米国医療保険改革法における医療の質の向上について基調講演をしていただき、その後でパネルディスカッションを開いた。2010 年に医療保険改革法を可決成立させたアメリカ合衆国では、皆保険の実現に向けてさまざまな改革が進められているが、日本においてその改革の本質はあまり理解されていない。もっとはっきりいえば、日本ではアメリカ合衆国で進められている改革が誤った形で報道されており、今回のワークショップは、その誤解を解くとともにアメリカ合衆国で進められている改革のうち、特に医療の質の向上に着目して日本にとっての示唆を得ようとするものであった。
 ジェニファー氏は、基調講演においてアメリカ合衆国における医療保険法の改革が日本にとっても意味がある試みであることを示し、改革の具体的な内容について簡潔に説明した。日本は、世界で最も高齢化が進んでおり、高齢化と医療技術の進歩によって医療費は増加傾向にある。医療保険や医療提供体制を持続可能なものにする見地から、医療費の適正化が大きな課題となっており、入院日数の短縮、病床数の規制強化、ジェネリック薬の利用促進などさまざまな改革が進められている。アメリカ合衆国では、医療保険改革法によってマーケットメカニズムを最大限に駆使しながら皆保険制度を実現しつつ、医療費の適正化と医療の質の向上を目指すための施策が講じられてきた。皆保険を所与の前提とすれば、残るは医療費の適正化と医療の質の向上を両立させることになるが、そのために何ができるのかという命題は、簡単なようで実のところ極めて難しいという。アメリカの医療保険改革では公的医療費の削減を推し進める一方、医療の質を維持し高めるインセンティヴが新たに導入されており、医療の質の計り方についても度重なる議論とスキームの設計がなされた。提供される医療サービスの量ではなく、医療の質の向上と診療報酬等のインセンティヴを直接的に結びつける試みこそ、アメリカ合衆国が進めている改革の骨子である。具体的にいえば、プライマリーケアにおける予算一括支払いとアウトカム連動型のボーナス支払いや、診療報酬のGDP連動キャップ撤廃と質の向上に基づく補正加算、さらには複数医療機関、支払機関、医療提供者が協力して医療の質を保ちながら医療費を削減した場合にボーナスが支給されるアカウンタブルケア・オーガナイゼ―ション(ACO)というスキームなどが例示された。
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Photo: 伊ケ崎 忍

 パネルディスカッションでは、財務省関税局長を経て、日本政策投資銀行で活躍された後、東京大学では世界経済フォーラム(ダボス会議)との関係を活用し、リスク及び復元力(レジリアンス)のプロジェクトを共催するほか、シリコンバレーを中心とする医療ベンチャーの日本のヘルスケア事業へのとりこみ方法を研究している竹内洋先生、そして明治大学国際総合研究所および東京大学公共政策大学院において主に医療分野のイノベーションについて研究されている大西昭郎先生に加わっていただいた。
 竹内先生は、医療保険改革法後の保険料の増加や医療費の水準、医療の質の向上についてどのような結果が表れているのかについて、また、究極的に医療の質の向上と医療費の適正化が両立しうるのかという根本的な疑問を提起した。保険料は医療保険改革法の成立・施行前から上昇トレンドがあったものの、直近の2年を見ると、多くの州で保険料の上昇率は低下しており、医療費の将来推計でも伸びが小さくなっているという。医療の質については、ACOの取り組みが改めて紹介された。
 大西先生は。医療の質や診療報酬という医療従事者にとって極めてセンシティブなトピックについてステイクホルダー間で合意し、改革に踏み出すことのできる秘密について質問された。医療に関係する改革には時間がかかり、そもそも合意形成がなかなか進まないところ、アメリカ合衆国のダイナミズムの源泉について議論が深められた。
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Photo: 伊ケ崎 忍

 医療保険へのアクセスを高めながら、医療の質を向上させ、さらには公的医療費の適正化をも実現しようとする野心的な挑戦は、高齢化の進展とともに医療費のさらなる適正化に取り組む日本にとっても、さらにはその他の国々にとっても貴重な事例といえよう。

佐藤 智晶(東京大学公共政策大学院 特任准教授)

<プログラム>
18:00-18:05 開会の挨拶と講演者の紹介
18:05-18:35 基調講演:Jennifer Friedman, MPP, International Affairs Fellow in Japan (sponsored by Hitachi, Ltd.), Council on Foreign Relations/ Visiting Scholar, Meiji Institute for Global Affairs
18:35-18:45 休憩
18:45-19:20 パネルディスカッション
 竹内洋  東京大学政策ビジョン研究センター・客員教授/弁護士
 大西昭郎 東京大学公共政策大学院・特任教授
 Jennifer Friedman, International Affairs Fellow in Japan (sponsored by Hitachi, Ltd), Council on Foreign Relations/ Visiting Scholar, Meiji Institute for Global Affairs
 モデレーター 佐藤智晶 東京大学公共政策大学院・特任准教授/青山学院大学法学部・准教授/ブルッキングス研究所経済部局医療政策部門・客員研究員
19:20-19:30 Q&A
19:30 閉会

問い合わせ先:
科学技術イノベーション政策の科学(STIG)事務局
STIG@pp.u-tokyo.ac.jp