教員紹介

「定石」を探求して次の一手を打つ

東京大学工学系研究科
技術経営戦略学専攻
特任助教 吉岡(小林) 徹

イノベーションには様々な障害がつきまといます。大きく区分すると、そもそもイノベーションの種(着想)が生まれない、生まれたとしてもそれを組織の中で育てることが出来ない、組織で育ったとしても社会に受け入れられない、社会に受け入れられても持続できない、の4つに分けられるでしょう。

この障害にどう向き合えばいいでしょうか。イノベーションに成功した人に聞く、ということも手です。しかし、限られた経験から得られた知見が別の場面で当てはまるのか必ずしもわかりません。自分一人が取り組むものならば、多少の賭けは悪くありません。しかし、多くの場合、様々な人を巻き込みます。政策の場合はなおさらです。皆さんの仲間や家族を知らないうちに賭け事に巻き込むことは本当にいいのでしょうか?

学問はそのためにあります。過去から一般化できる法則を学び、失敗の確率を下げること、または、成功の確率を高めること、そして、自らの挑戦から新たな法則を発見し、将来につなげること。これが、学問の役割です。将棋や囲碁に例えるならば、「定石」といえるかもしれません。

ただ、学問には限界もあります。一人の人間が理解できるものごとには限りがあるため、学問はある側面からみた場合の「定石」を導くにとどまることが一般的です。経済学や経営学ならば物質的な豊かさを、法学ならば社会の正義・公平さを、科学技術社会論ならば社会としての心の豊かさにたどり着くための法則を議論しています。一つの学問だけでは、イノベーションに伴う障害を乗り越えられないことが少なくありません。私は、知的財産制度を法学と経営学の面から研究してきましたが、研究すればするほど、私一人の目だけでは足りないことに気が付かされます。

科学技術政策やイノベーション政策を考える人材に必要なものは、異なる視点からの定石を理解できる力、つまり学際的な知識の「吸収能力(absorptive capacity)」であると思います。このプログラムを通じて、学術分野を横断して吸収できる人材になってくださることを期待しています。