Event
12/09
2013

【開催報告】第3回健康・医療戦略ラウンドテーブル:医療の国際展開を厚生に関する政策という視点から考える


第3回 健康・医療戦略ラウンドテーブル
医療の国際展開を厚生に関する政策という視点から考える

Healthcare Policy Roundtable 2013:
Thinking International Expansion in Health Sectors through Health and Welfare Policy Perspectives

日時:2013年12月9日(月)10:00~11:30
会場:伊藤国際学術研究センター地下1階ギャラリー1
言語:日本語
主催:東京大学 科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育・研究ユニット
共催:東京大学政策ビジョン研究センター

【開催報告】
はじめに
第3回となる今回のラウンドテーブルでは、医療の国際展開について厚生(主に国民の健康の増進や医療の向上等)に関する政策の視点から検討した。今回のラウンドテーブルで着目したのは、(1)医療技術・サービスの国際展開が国内の医療制度とどう密接に結びついているのか、そして(2)保健医療の向上と産業振興の両立をどのように推進してゆくのかという2点である。第2回ラウンドテーブルでも確認されたように、「日本再興戦略」と「健康・医療戦略」のもとで強調されている「医療技術・サービスの国際展開」を通じて世界に貢献することが重要なのは言うまでもない。ただし、保険等の制度や医療・介護システム構築の経験に乏しい状況にある新興国に対して、我が国が具体的なサービスの提供、医療・介護システムの構築に協力することで、医療・介護に関する相互互恵的な関係を構築しようとしても、我が国の医療水準や制度が新興国からみて魅力的でなければならない。医療技術・サービスの国際展開を進めるということは、実のところ世界最先端の医療技術・サービスを実現し、健康寿命世界一を達成するための改革を我が国で着実に進めていくことでもある、という点に注目するのが今回のワークショップの目的であった。

今回のラウンドテーブルは、第1回と第2回に引き続き、ブルッキングス研究所で日常的に行われているセミナーを意識して開催した。実際の政策立案者と関連する実務家ないし研究者を交えて、今まさに起きている問題についてカジュアルな議論を行った。

今回は、関野秀人氏(厚生労働省医政局経済課医療機器政策室長)と林良造客員教授(東京大学公共政策大学院/明治大学国際総合研究所所長)をお招きした。関野氏は、厚生労働省において特に医療機器分野の国際展開を推進する中心的な役割を担っている。関野氏は、現在のポストに着任する前に医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長として活躍しており、医療機器分野の政策に極めて明るい。他方、林教授は、通商産業省/経済産業省で活躍された経験を持つだけでなく、いち早く医療機器分野の産業としての可能性に気づき、改革の必要性を唱えた優れた研究者である。

関野秀人氏の基調講演
林良造客員教授の開会の挨拶に引き続き、関野氏は、「厚生労働省の医療機器産業政策
~保健医療の向上と産業振興の両立~」と題して、最近の関連政策と考え方について明快に講演された。

関野氏は、医療機器分野の産業としての可能性を指摘しつつ、現状では海外展開に活路を見いだすことが重要である、と指摘した。医療機器は、端的にいえば医療の高度化、医療の質の向上、社会構造等に大きく貢献するもので、医療界と産業界が力を結集して生み出される製品(薬事法により、品質、安全性、有効性が評価され、市販されるもの)のことをいう。それまで医療界の創意工夫で行われていた医療は、医療機器の改良・改善を通じてさらに発展していく可能性がある。

医療機器の生産・輸出・輸入の現状についていえば、全体では輸入超過の傾向にある。平成23年における医療機器の生産額は約1.8兆円。そのうち約0.5兆円(約26.5%)は輸出される一方、輸入金額は約1.1兆円であり、国内売上高の約44.4%を占め、輸出額の約2.2倍となっている。治療系機器については、年々輸出額が伸長傾向にはあるものの(平成19年度から23年度まで1429億円、1418億円、1469億円、1447億円、1510億円と推移)、輸入額(平成23年度で6460億円)との比較では4倍以上の開きがある。ただし、重要なことに診断系機器については輸出額(平成23年度で2979億円)が輸入額(平成23年度で1707億円)を上回っている。

国内における治療系機器及び診断系機器の市場規模の推移は、さらに興味深い。診断系機器の市場は、横ばい傾向にある(平成19年度から23年度まで6121億円、6209億円、5537億円、5702億円、6126億円と推移)。他方、国内の医療機器市場において、治療系機器は平成19年(1兆24億円)までは微増傾向にあったが、その後5年間で1.3倍に拡大し、平成23年時点(1兆2564億円)で国内市場の約53%を占めている。

このような医療機器産業の現状を踏まえた上で、関野氏は医療機器分野で海外展開を進める際のキーポイントとして次の3つを挙げている。次のような国に対しては、我が国が海外展開支援策を展開する意味は特に大きいという。

①承認時要求資料の簡素化を求める国
②日本の制度が欧米と同等であることの理解を促す国
③制度が整う前に日本の制度導入を図る国

医療機器分野の振興策については、医療機器の特性を踏まえるべきものと考えている。すなわち、医療機器は臨床現場での実際の使用を通じて、実用化が進む。また、医療機器は
絶えず改良・改善が行われ、一製品あたりの寿命が短い。さらに、医療機器の有効性・安全性は、医師等の技能に依る部分が大きく、かつ、臨床現場では少量多品目が使用されている。振興策を検討する上で、このような医療機器の特性を踏まえることは欠かせない。

医療機器分野の振興策は、2本の基本的な法律(案)に基づいてさまざまな形で実現されつつある。1つめの法律案は、医療機器の研究開発及び普及の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進のための議員立法で、名称を「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律案」という。もう1つの法律案は、医療機器の安全かつ迅速な実用化に対応できるよう、医療機器の特性を踏まえた規制・制度を整備するための閣法(内閣提案法律案)で、名称を「薬事法改正案」という。医療機器の研究開発・実用化の推進と迅速な製品化に対応可能な審査の実施が相まって、国民にとって有用な医療機器の「迅速」かつ「安全」な提供することができるようになる。

その他の施策を列挙すると、以下のようなものがある。
①早期・探索的臨床試験拠点及び臨床研究中核病院の整備、
②医療制度全般の改革(病院・病床機能の分化・連携、人材確保・チーム医療の推進、医療事故の原因究明・再発防止、臨床研究の推進)
③次期診療報酬改定における社会保障・税一体改革関連の改革
④科学に立脚した評価(レギュラトリーサイエンス)
⑤デバイス・ラグの解消に向けた取組(優先審査、薬事戦略相談、医療機器の審査迅速化アクションプログラム、PMDAと大学等研究機関との人材交流、迅速な保険導入に係る評価(デバイス・ラグの改善を推進する観点から、加算要件を満たすような有用性が高い新規医療材料について、新規機能区分に追加して、価格改定にかかわらずその有用性を評価)
⑥経済財政運営と改革の基本方針
⑦日本再興戦略

日本再興戦略では、戦略市場創造プランが重要である。国民の「健康寿命」の延伸
をテーマとして、(1)効果的な予防サービスや健康管理の充実により、健やかに生活し、老いることができる社会、(2)医療関連産業の活性化により、必要な世界最先端の医療等が受けられる社会、(3)病気やけがをしても、良質な医療・介護へのアクセスにより、早く社会に復帰できる社会が掲げられている。医療の国際展開は、(2)に組み込まれている。

厚生労働省では、上記医療機器分野に関連する改革を確たる基盤として、医療の国際展開を着実に推進するために2013年5月、医療国際展開戦略室を設置した。ここでは、日本発の医療機器、医薬品等を、産業界、医療界及び関係府省との連携の下、医療制度、保険制度等とともに、一体的かつ効果的に国際展開することを目標としている。すなわち、国際展開は、我が国が要する設備・物資、技術・人、そして制度を駆使して進められる。
具体的な取り組みは次の3つである。

1. 日本発の医療機器・医薬品等の諸外国への輸出の促進
2. 外国医療関係者への技能研修等の推進
3. 我が国の良質な医療の提供を通じた国際貢献の推進

まとめ
医療機器分野の展開を推進するに当たって重要なのは、医療機器に関する施策や制度と医療の実態や社会情勢の変化が相互に影響し合っていることである。医療の実態(社会情勢)が施策や制度を生み出すことがあり、他方で施策や制度が医療の実態を形成することもある。医療機器分野を含めて医療の国際展開を推進するためには、海外進出の鍵を押さえつつ、我が国における施策や制度を医療の実態に照らして適切により改善してゆくことであろう。

また、医療の国際展開においては、相手国の健康保健省との間で意見交換や交渉が欠かせない。医療に関する施策や制度については、やはり厚生に関する政策を担当する者同士が話し合えるチャネルが重要である。その上で、各国・地域の実情に適した医療機器を、人的協力や保険制度等と一体化して輸出するためには、我が国の他省庁との連携も必要になる。

これまでどちらかといえば国内に目を向けて考えられ、推進されてきた厚生に関する政策はよりグローバルな視野から検討されつつある。英語をはじめとするさまざまな言語を駆使して、各国・地域の実情に適した医療の国際展開が進められている。このような動きを踏まえて、医療機器分野全体においてもよりグローバルな展開を視野に入れた活動が活発になるためには、やはり国内市場を中心としてきたマインドセットを少し変える必要があるかもしれない。

医療の国際展開は、保健医療の向上と産業振興の両立を図るための国際の改革と一体である。近年、医療機器分野の改革は着実に進められており、それらが医療の国際展開の礎となっている。日本再興戦略や健康医療戦略がよく知られているものの、早期・探索的臨床試験拠点及び臨床研究中核病院の整備、医療制度全般の改革(病院・病床機能の分化・連携、人材確保・チーム医療の推進、医療事故の原因究明・再発防止、臨床研究の推進)、次期診療報酬改定における社会保障・税一体改革関連の改革、科学に立脚した評価(レギュラトリーサイエンス)、デバイス・ラグの解消に向けた取組等、枚挙に暇がない。世界最先端の医療技術・サービスを実現し、健康寿命世界一を達成するための改革を我が国で着実に進めていくことが、日本の医療の魅力をさらに高めることになり、医療の国際展開にとって強力な基盤となるだろう。

東京大学公共政策大学院/政策ビジョン研究センター併任特任講師 佐藤 智晶